大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1915号 判決

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金百七十九万千六百円を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、認否、援用は、被控訴代理人において、「当庁昭和二十七年(ネ)第一、六五七号建物収去土地明渡請求控訴事件については、その後当裁判所において控訴棄却の判決の言渡があつたが現在上告審に係属中であり、控訴人は依然として引きつづき本件土地を占有使用している。」と述べ、控訴代理人において、「右事実は認めるなお原審証人松本利一郎の証言を援用し乙第一号証の成立は知らない。」と述べた外、いずれも原判決の事実摘示(但し原判決七枚目、裏十一行目「佐藤佐三郎」は「佐藤田三郎」の誤記であると認める)と同一であるから、ここにこれを引用する。

三、理  由

当裁判所は、審究の結果、原判決と同様控訴人の本訴請求を理由のないものと判定したので、左記のとおり補足する外原判決の理由の記載をここに引用する。

(一)  建物の所有を目的とする土地の賃貸借において、賃貸人がその所有にかかる賃貸土地を第三者に譲渡した場合、賃借人が賃貸借の登記をしたとき又は賃借地上に登記した建物を所有しているときは、賃借人は、その賃借権を以て新所有者に対抗しうべく、新所有者は法律上当然に右賃貸借の賃貸人たる地位を承継し、これとともに旧所有者は右賃貸借関係より脱退しその賃貸人としての義務は免責されるものであるけれども(民法第六百五条建物保護法第一条参照)賃借人が賃貸借についても又地上建物についても登記せず、従つてその賃借権を以て新所有者に対抗できないときは、右賃借権は果して右譲渡の登記完了と同時に履行不能により消滅したものということができるのであろうか。なる程賃借人は、その賃借権を以て新所有者に対抗することができない結果、新所有者が任意に賃貸借の賃貸人たる地位を承継し又は新たに賃貸借を締結しない限り、賃借地の使用収益は新所有者に対する関係において不法行為となり、従つて新所有者の請求に応じて賃借地を返還しなければならないような事態に立ちいたることもあるであろう。又地上建物の登記をしなかつたことが賃借人の怠慢に基くからといつて、そのことは民法第四百十八条にいわゆる過失相殺の理由となることは格別、それがため賃借人を目して権利の上にねむるものとして法律の保護に値しないものということもできないのであろう。しかしながら、賃貸借における賃借人の権利の中核をなすものは賃借物の使用収益をなす権利すなわち賃借権であり又他人の物についても賃貸借は成立しうるのであるから、賃貸人がその所有にかかる賃貸土地を第三者に譲渡し他面賃借人がその賃借権を以て右第三者に対抗できないからといつて、賃借人の賃借権が右譲渡の登記完了と同時に消滅したとなすのはいささか早計であつて、賃借人が賃借物を新所有者に引き渡しこれを使用収益することができないようになつた場合は格別、依然としてこれが使用利益を継続している限りその使用収益は妨げられてないのであるから、賃貸人の賃借人をして目的物の使用収益をなさしめる義務が履行不能となり、これにより賃借人の賃借権が消滅したものとなすことはできないであろう、もとより右使用収益の継続が新所有者に対する関係において不法行為となり、賃借人は新所有者に対し右による損害賠償債務を負担することもあるであろうか、この場合には、賃借人はその限度において賃料の全部又は一部の支払を拒むこともできるのであつて(民法第六百一条、第五百五十九条、第五百七十六条参照)これがため賃借権が消滅するという論拠となすことはできないであろう。

(二)  今本件についてこれをみるに、新所有者である山之口隆盛は控訴人に対して賃貸借の目的物である本件土地の明渡を求めているのであつて一審二審ともに控訴人の敗訴となり、現在上審に係属中であつて(右事実は当事者間に争がない)将来控訴人が山之口に対し本件土地を引き渡さねばならないおそれは多分にあり、又山之口をして本件賃貸借の賃貸人たる地位の承継又は新賃借の締結を承諾せしめることもむづかしいことであろうか他面控訴人が依然本件宅地を占有しその地上に本件建物を所有し、使用収益を継続していることも控訴人の認めて争わないところであるから、控訴人と被控訴人との間の本件賃貸借関係は本件土地の譲渡の登記完了にかかわらず依然として存続しているものとなすを相当とすべく、これにより控訴人の賃借権が消滅したとなすことは到底できない。

従つて右と同趣旨に出た原判決は相当であつて控訴人の控訴は理由がないので、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 大江保直 岡咲恕一 猪俣幸一)

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